「やまちゃん、凄いのあるよ」
仕事から帰り、
晩飯の支度でもとキッチンに立っていると、
帰宅した妻が手に箱を持って現れた。
「何それ?」
「海老らしいよ、お父さんからもらった」
「オヤジさん食べないの?」
「何か料理法がよく分かんないんだって」
妻のオヤジさんは普通に料理が出来る、
茹でるなり、炒めるなりすりゃいいのに。
「車海老じゃん」
「結構重いよ」
「で、どうやって食べんの?」
パッケージには、
天ぷら、刺身、塩焼き、煮物、
酔っ払いえび、すし、サラダと
いろいろな調理法が書いてある。
「刺身とかでいーじゃん」
「塩焼きとかは?」
「何でわざわざ、生食用なんだろ。
そのまま食べた方がいいって」
「じゃ、そっしようか」
「じゃ、早速・・・」
調理台に段ボールをのせ開封する。
ぱかっ
(・・・ん?何でオガクズ?)
生食用の冷凍物だと思っていたので
いきなりのオガクズに?な自分。
(この中に入ってんのかな・・・)
菜箸で表面をささっと払うと
海老らしき背中?が現れた。
菜箸で掴み、ちょっと引き出す。
「おっきい海老だなこれ」
一度海老をリリースする。
ユラっ
(んんっ!?今、動いた・・・か???)
菜箸を離した時、
オガクズのバランスが崩れたのか
海老がちょっと動いた気がした。
今度は菜箸で掴みひっくり返すと
海老の脚が見える。
・・・・わにょわにょわにょ
「うわああああああっ!!!!!!!」
「きゃあああああああああ!!!!!!!」
海老を放り投げ2メートル程飛び退く自分と、
それに驚いて悲鳴を上げる妻。
「い、生きてんじゃねえかよおおおおおおーーーーーっ!!!!!」
「えええええええええええっーーー!!!!!」
再び覗く
・・・わにょわにょ
「な、何で生きてんだよおおおおおおっ!」
「きゃあああああああああ!!!!!!!」
もう近づけない。
「こわっ!!!めっちゃこええええ!!!」
「返そうか!返そうか!!」
「何で?何で生きてんの?怖いんですけどっ!」
「返そうか!返そうか!!」
「ぜってえ無理!ぜってえ無理だって!」
「返そうか!返そうか!!」
しばらくこのやりとりが続く。
「ま、まずは検索だ!」
Macの前へ走る。
(え、えっと、
「海老 生きてる 怖い」・・・あった!)
全国の同志の悲痛な叫びに応える神のお言葉達。
(えっと、何々・・・まず布巾で頭の方を持ち・・・って
怖くて近寄れねえのに持てる訳ねーだろーがっ!!)
(えっと・・・新鮮なうちにオガクズから出して・・・って
だ・か・ら!触れねーんだって!!!)
(えっと、氷水に入れて下さい・・・ってだからあ!!!)
でも、
このままと言う訳にも行かない。
「ど、どう?やまちゃん!」
「氷水に入れよう」
「氷!氷ねっ!!」
氷水は用意した、さあ投入だ。
菜箸でオガクズを退けながら
恐る恐る海老を掴む。
わにょわにょ
「うわああああああああああっ!!!!!!!!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
男の絶叫と女の悲鳴が響きわたる。
「ぜってえ無理だってえ、だって生きてんだもん!」
わにょ
「うわああああああああああっ!!!!!!!!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
妻は3メートル程離れた
階段の手すりにしがみついたままだ。
それでも一個ずつステンレス製のボウルに入れて行く。
びょん
「うわああああああああああっ!!!!!!!!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
「跳ねてんじゃねえよてめえええええっ!!!!!!」
「ごめんねえ、何も出来なくてごめんねえ・・・・・」
やや半泣きの妻。
地獄はまだ終わらない。
わにょびょん
「うわああああああああああっ!!!!!!!!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
「一体何匹いるんだよおおおおおおおっ!!!!!!」
「あたし・・・もう立ってられない・・・・・・・」
妻は階段で腰を抜かしていた。
ようやく全ての海老を投入完了。
(20匹は居た)
したはいいが、
海老にオガクズが付いていた為
浮いたオガクズでボウルの中が全く見えない。
「何か静かになった・・んじゃねーかな」
「そ、そうみたい・・・」
恐る恐る近づく。
ビョン!
「うわああああああああああっ!!!!!!!!!!」
「きゃあああああああああああ!!!!!!!!!!」
「何!?何!?何起こった?!!!」
「一匹出た!一匹出たよお!!」
「出てんじゃねーよテメエっ!!!!!」
「フ、フタっ!!」
すぐさま”まな板”を乗せる。
ビチっ!
ゴンっ!
ビチっビチっ!!
ゴンゴンっ!!
「何で・・・何で元気なの・・・・どうするこれ?」
「どうしよっか・・・」
遠巻きに見つめる二人。
「よし!茹でよう!グラグラのお湯にぶっこむだけなら出来る!
いや、俺はやる!」
「やまちゃんカッコイイ!」
(妻の頭には”蒲田行進曲”があったに違いない)
「ぐおおおおおおっ!」
妻の声援を味方に、
歯を食いしばりながら一匹ずつ投入!
投入したらフタ、
投入したらフタ、
さながらワンコ海老。
令和二年、
こうして長きに渡る車海老軍との戦闘は、
尊い犠牲を払いながらも
終わりを告げたのであった。
ー完ー
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ちょんちょん
(ワサビを付けてと・・・♪)
パクっ!
「あ!うまあっ!食べてみ!」
「あ、おいし!」